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2016年2月

2016年2月22日 (月)

9.『フー・ファイターズ~不味い飯~』

ハイロウズ終了時点で、大体三時ぐらいだったろうか?

実は朝から何も食べないままここまできてしまったのだ。休憩を取りたいのだが、ステージから離れるにはいかんせんラインナップが豪華すぎる。でも物凄い空腹感だし、疲れてきたし、何より軽装でずっと暴風雨に曝されていたからか寒気までしてきた。体感温度だけでなく、「本当に今、夏か?」と思うぐらい実際の気温も下がってきているようだ。ライブ中は興奮していて気付かないが、バンドとバンドの合間のセッティング中などに冷静になってみると、「ああ、今台風が直撃しているんだな」と改めて実感する。ただただ、しんどい。

ここで杉内が、

「そろそろ飯食いに行かない?」

と当たり前の提案をしてきた。しかし次はフーファイターズだ。

「でもフーファイターズは見逃せないだろ?もうちょっと待てよ」

と僕。この我儘な答えを聞き、杉内はみるみる不機嫌になってしまった。小学生で出会ってから今まで、杉内とは言い争いすらした事がなかったのに。気まずい。ただでさえ今は暇なセッティング時間だ。この天候の中暇を潰せる訳でもなし、こんな空気ではとても耐えられない。ふと気づくと、杉内の唇が若干青くなっている。かなり体調が悪いのかもしれない。そこでようやく僕は妥協する気になり、

「じゃあ、『モンキーレンチ』だけ聴かせてよ。それ聴いたらすぐ飯行こう」

と、提案した。杉内は了承してくれたので、ひとまず安心だ。そうこうしているうちにフーファイターズの登場。デイヴ・グロールは後に読んだインタビューで、

「ハイロウズは最高だった。ボーカルの奴は凄い。まるでイギー・ポップmeetsディープ・パープルだ」

と語っていた。この日は台風という特殊な環境がバンドのテンションを上げ、それに影響されて次のバンドもさらにテンションの高いライブを繰り広げる、という(ライブだけとってみれば)最高の好循環が出来上がっていたように思う。デイヴ・グロールも初っ端から野太いシャウトを轟かせる。バンドの演奏も素晴らしくて、カンカンと甲高いスネアの音が気持ち良い。『モンキーレンチ』も無事五曲目くらいにやってくれたので、約束どおり飯を食べに行くことにした。

(しかし、今こうして冷静に書いてみると、あの時は本当に疲労困憊だったんだな、と改めて思う。だってフーファイターズだよ?普段だったら絶対に最後まで見ていた筈だ)

ステージを離れ、飯の屋台やグッズを販売するテントがあるエリアに向かう。会場に到着してから冷静に全体の様子を見たのは、この時が初めてだった。既にかなり悲惨な状況になっているじゃないか!寒さに耐え切れず入り口で貸し出していた毛布に包まり、しゃがみこんだままピクリとも動かない人達が何人もいる。小さめの茶色い山(毛布が泥まみれになっているのでそう見える)が、あちこちに転々としている光景は異様だ。

また多くの人が雨具を持っていなかった為、入り口で配っていたタワレコの袋を頭にかぶって雨を凌いでいる。貰った時は「邪魔だけど記念だし」と取っておいたが、そんな使い道があるのか。僕も早速真似して頭にかぶる。もう誰も見た目なんか気にしていない。思春期ど真ん中の僕だったが、雨に濡れてモロに透けて見える女の子のブラジャーの線も全然気にならない。こんなラッキーボールを見逃すなんて、事の重大さがお分かり頂けるだろう。

かすかに聴こえるフーファイターズの演奏を聴きながら、買ってすぐ大量の雨が入りこみシャバシャバになってしまった“何か”を杉内と無言で食べる。自分が何を買って何を食べているのかもよく分からない。まずい。会話というそれなりに力や神経を使う行為も億劫になってきて、杉内との会話は殆どなくなってきた。こんな状態で僕達は果たして最後までもつのだろうか?

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2016年2月15日 (月)

8.『ザ・ハイロウズ登場!!!~月光陽光~』

次はいよいよ僕も杉内も心待ちにしていたハイロウズ。中学生の頃から憧れ続け、ブルーハーツのライブビデオも繰り返し見ていたが、ヒロトもマーシーも生で見るのは初めてなのだ!ステージ上で機材のセッティングをしていたローディーの兄ちゃんが、

「次は今日最初の日本のバンドです。みんな応援して下さい!」

と客を煽った。この効果は絶大で、メインステージ周辺にいた殆ど全ての人達がステージの前方へ押し寄せ、ハイロウズの登場を待っている

「どうする?」
「行くか!」

サードアイ・ブラインドの時には早くも疲れを感じ始めて若干後ろに下がっていたが、僕らも再び最前列エリアに進むことにした。確かオマリーバージョンの『六甲颪』が流れる中、メンバーが登場した。

マーシーが激しいリフをかき鳴らす。『俺軍暁の出撃』だ!ピョンピョン飛び跳ね、シャウトするヒロト。

「本物だ!本当にあの動きをするんだ!」

客席は早くもこの日一番の盛り上がりを見せ、僕らは前へ後ろへ横へ、とにかくもみくちゃにされた。この日のハイロウズはスタジアムクラスで演奏するハードロックバンドのようで、音圧が物凄い。いつもなのかもしれないが、ヒロトの目がおかしい(ヒロトはこの日バックステージでジョー・ストラマーと遭遇している。後にステージ直前のインタビュー映像を見たらその興奮を抑えきれない様子だった)。そして僕は、ヒロトのその目を実際に見られる位置にいるんだ!

「あー、なんて格好良いんだ!!」

ところが突然演奏が止まった。

「何が起きたんだ?」

ステージを見ると、関係者らしき男が出てきてハイロウズに演奏をやめるように言っている。瞬時に巻き起こるとてつもない大きさのブーイング。男がマイクを持つ。

「みんな、一番前の女の子達がフェンスに押し潰されて死にそうになっている。頼むから一端後ろに下がってくれ!」

後から分かった事だが、この日のトリ前に出るイエローモンキー目当ての女の子達が、朝早くから来て一番前の場所取りをしていたらしい。恐らくその子達は僕と同じようにモッシュやダイブの経験がなかったのだろう。観客がこんなに激しい動きをするなんて、想像もしていなかったに違いない。なんと11時にライブが始まってから今までずーっと、最前列のフェンスに押し付けられていたのだ。

主催者側が必死に後ろに行くように説得したようだが、その子達にも意地があったのだろう。絶対に動かなかったそうだ。しかしハイロウズの激しい演奏に観客の圧力はますます増し、明らかに彼女達の体力が限界に来ている。そこで主催者がやむなく観客全員に事情を説明する為に、ステージに上がったのだ。

その後もハイロウズが演奏を始めては止められ、始めては止められという状況になってしまった。ベースの調さんは興奮していてバンドの演奏が止まっていることに気が付かず、一人でずーっとベースを弾いている。暫くしてようやく気が付くと、最高の気分を中断されたことに苛立ったのか、ベースの弦を叩きつけている。見ていて痛々しい。客のオーバーペースが徐々に良くない事態を生み出し始めていた。

その後もハイロウズは何度も演奏を止められながらも、何とかライブをやり遂げた。最後に演奏された『月光陽光』の時、印象深い出来事があった。

「月光 陽光 俺を照らせよ」

という歌詞をヒロトが唄った時、激しい横殴りの雨を降らし続けていたどす黒い雲の合間から、一瞬だけ光が差したのだ。あの時、黒い雲の隙間から見えた太陽を僕は一生忘れられない。

全ての演奏を終え、チン○を出すヒロト。おお、これも生で見られるとは。

「最後まで楽しんでいってくれよー」

と手を振るヒロトの笑顔は、僕には何とも神々しく映った。しかし暴風雨の中、我を忘れて飛び跳ね続けてきた疲れが、急激に僕達を襲い始めていた。

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2016年2月 8日 (月)

7.『サード・アイ・ブラインド』

熱演のサマーキャンプの後に出てきたのはサードアイ・ブラインド。ちょうどこの頃、彼らの『Semi-Charmed Life』という曲がアメリカでヒットしていた。日本でもMTVでヘビーローテーションになっていたので、僕も知っていた。とは言え、やはりこの時点の日本で超メジャーなバンドではなかったと思う。

彼らはどちらかと言えば「じっくり聴かせる曲」が多いようだったが、サマーキャンプへの対抗心か、止まらない観客の熱気のせいか、またまたヘビーなパフォーマンスを繰り広げたから大変だ。

会場の熱気は先程よりももう一段階上へ。もはや全員発狂しているかのようだ。客席から煙がモクモク、モクモクと上がり続ける。

「本当に来て良かった!」

僕も杉内も我を忘れる程に盛り上がっていたので言葉で確認したわけではないが、お互いそんな顔をしていた。いや、僕らだけじゃない。あの場にいる誰もが幸せを感じていた筈だ。

しかし、僅か二バンド目で僕の軽装が悪い状況を生み出し始めていた。まず足元のビーサン。スキー場の微妙な傾斜、しかも泥まみれの地面で飛んだり跳ねたりしたので、既に足が痛くなってきていた。そして勿論、半袖短パンという服装。体から煙が上がる、という事は着実に熱が奪われている訳で、体自体は熱くなっているのだけどビチャッと張り付くTシャツはヒンヤリ冷たい。

幾ら色んな経験を積んでいなかったとはいえ、言っても高校生だ。台風の予報が出ているのに何の対策もしないなんて…。しかも恐ろしい事に、会場を見渡してみるとそのような輩は僕だけではなく、むしろきっちりアウトドア用の準備をしてきた人の方が珍しいくらいだった。

興奮の坩堝と化し、上がり続ける会場の熱気。それと呼応するかのように雨、風の勢いも強くなり続ける。どんどん、どんどん、どんどん…。もはや雨は縦ではなく、横に降っている有様だった。

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2016年2月 2日 (火)

6.『サマーキャンプ』

結局、会場の天神山スキー場に着いた時には、ライブ開始予定時刻から一時間ほど過ぎていた。この時点で既に雨足はかなり強くなっていた。だがそんな事より、出遅れたのを少しでも取り戻さなければ。

バスから降りた時点で、すでにバンドが奏でる轟音が聞こえた。やはりライブは予定通り始まっているようだ。僕達二人は猛ダッシュで入り口ゲートに向かって走る。入り口でチケットを渡すと、タワーレコードのお馴染みの黄色い袋にチラシなどを詰めたものを渡される。はっきりいって邪魔だったが、この場に来たという記念になるかと思い取っておくことにした。

取りあえず会場案内図を確認する。

Photo

初年度のフジロックフェスティバルは、天神山スキー場内にメインであるホワイトステージと、セカンドステージであるグリーンステージ、二つのステージが少し離れて設置されていた。雨脚もだいぶ強くなってきたし、僕達は取りあえず目の前にあるメインのホワイトステージに向かう事にした。

天神山スキー場はその名のとおりスキー場で、ゲレンデのなだらかな傾斜の一番下にステージが設けられていた。つまりステージから遠ざかるほど、ステージを見下ろす格好になる。ホワイトステージエリアで広さは東京ドームのグラウンド二つ分くらいだろうか?

ステージ近くに到着すると、既にサザンカルチャー・オン・ザ・スキッズは終わったようで、2バンド目のサマーキャンプの演奏が始まっていた。正直全く知らないバンドだったのだが、曲も演奏もメンバーも、そして骨組みが丸見えな無骨な巨大ステージも、雨の中日本初の野外ロックフェスに興奮し踊り狂う観客も…。何というか、僕達はその雰囲気に一発で「ヤラれて」しまった。

「格好良いな!」
「ああ、なんかスゲーぞ!」

これが野外フェスティバルなのか!

それにしてもサマーキャンプ。夏のこの日に、この場所で演奏する為に結成されたかのようなバンド名じゃないか。大学生みたいに爽やかな外見だが、演奏はなかなか重い。曲はパワーポップという感じで、コーラスワークが見事だ。野外ライブという事で音響は期待していなかったが、思っていた以上に良く聞こえる。

目に見えて雨は強くなっていく一方だし、物凄い風まで吹いてきた。もはや暴風雨の域。野外でライブを見るには最悪の環境、というかこんな状況で外にいる事自体馬鹿げている。しかしその事が逆に、その場にいる皆のテンションを異常に上げている。そして恐らくこの会場に到着するまでの諸々のゴタゴタやストレスも、皆のテンションを上げる事に関係しているのだろう。

そんな異様な熱気を受けて、バンドも気合の入ったパフォーマンスを繰り広げる。相乗効果で会場の熱気は上がり続ける。どんなに静かな曲をやろうとも、必ずどこかでモッシュが起きている。降り注ぐ雨が火照った観客に当たり、すぐに蒸気になって天に昇っていく。大袈裟ではなく観客から立ち上がる白い煙でステージが見えない。

「おいおい、まだ二バンド目だろ?」

僕と杉内は顔を見合わせて笑うが自分達自身も物凄く高揚していたのか、いつの間にか最前列付近に到達してしまっている。恐らく僕と同じように殆どの人がこのバンドを知らなかった筈だ。冷静になってしまうとちょっと怖いくらいの雰囲気。だから僕も理性を捨てて暴れた。実はこれまで、音楽が大好きであっても、ライブで弾けるなんて性格的に恥ずかしくて一度もなかった事なのに…。

とにかく僕達にとってのフジロックフェスティバルオープニングアクト、サマーキャンプは圧巻のパフォーマスンを見せつけて、ステージを降りていった。

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