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2016年3月22日 (火)

13.『レッドホットチリペッパーズ(1)~闇に響く声~』

イエモンのステージが終わる頃には、既に19時は過ぎていたと思う。長かったフェスティバル初日もいよいよレッチリを残すのみだ。夜間照明が闇の中に降る雨を照らし出し、とても綺麗に見えた。意識は既に朦朧としていたが、心の奥に僅かな高揚感が沸き上がってくるのを感じる。

僕とレッチリの出会いは中学二年生にまで遡る。杉内に借りて初めて『母乳』を聞いたときは、相当な衝撃を受けた。日本人から見ても確実に素行がよろしくないであろう男達なのに、演奏が異常に上手い。マジック・ジョンソンをひたすら応援するだけの馬鹿げた曲が、とんでもなく恰好良いなんて!

僕は放送委員に頼み込み、給食の時間の放送で『マジック・ジョンソン』を無理やりかけて貰ったりしていた。今考えてみれば、どれだけ落ち着かない給食なんだよ!迷惑な話だ。

『ワン・ホット・ミニット』はリアルタイムで出た初めてのアルバムだ。高一で学校のアメリカ研修に一か月間参加した時、カリフォルニアのタワーレコードで買った。流石彼らのお膝元。入り口に信じられない量のアルバムが積まれていたのを覚えている、

ギターはジョン・フルシアンテからデイヴ・ナヴァロに変っていたが、これも聞いてすぐに名盤だと思った。宿泊場所だったアメリカの大学のドミトリーで、毎晩毎晩繰り返し聞いた。すぐにでもギターをコピーしたかったのに、当然アメリカにはギターを持っていけなかったのでストレスが溜まった。

雑誌などで彼らの特集が組まれると必ず買っていたが、どの特集もレッチリのライブバンドとしての凄さに必ず触れていた。

「いずれ絶対に見てみたい!」

と思い続けていたその張本人達が、もうすぐ目の前に現れるのだ。

実はフジロック開催の直前に「アンソニーがバイクで転倒して骨折!」というニュースが音楽ファンの間に駆け巡っていた。「レッチリキャンセルか?」と一時は思われたし、僕自身相当落ち込んだのだが、出演は取り消されず無事この日を迎えていた。

天候は良くなるどころか、ますます酷くなっている。それに今までも寒かったが、暗くなると共に温度が急激に下がり始めている。これがつらい。皆ブルブルと震えながらひたすらレッチリの登場を待っている。

ステージではセッティングが進められているが、端のほうで再び主催者が観客に注意を呼びかけている。「皆、最後まで安全に終われるように…」云々。しかし主催者の握っていたマイクが、いつの間にか最前列の観客の手に渡ってしまったのだ。

「真奈美ちゃーん、はぐれちゃったけどレッチリ終わったらトイレのあるエリアで待ってまーす」

「賢治~。もう体力の限界が来てしまったので、悪いけど先に帰ります。ごめんな~」

「みんな~。辛いけど頑張ろうなー。レッチリが見れるんだからよ~」

「○○#$%☆◇!」

マイクが順番に回され、私的な連絡事項を述べる奴、奇声を発する奴、死にそうな声で
何かボソボソとしゃべる奴、そんな様々な声が永遠と会場中に流される。普通のライブでは、まずそんな事態にはならないだろう。しかし主催者もそれを容認しているようだ。そのことが逆に、

「やっぱり今は異常事態なんだな。皆もう限界で危険な状態なんだな」

と再認識させる結果となり、体力と共に精神的にもまいってしまった。

杉内とはもう随分と口を利いていない。僕より雨具などの用意が若干良かった杉内だが、ダメージは僕より深刻そうだ。先程より顔色が悪い。そんな彼の体調が気にはなるのだが、自分も相当酷い状況なのでどうすることも出来ない。しかしそんな悲惨な状況でも「帰る」という選択肢は二人の間にはなかった。最悪の事態になってもいい。レッチリだけは見なくては。

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